福岡高等裁判所 昭和42年(う)613号 判決 1968年1月20日
被告人 西岡渉
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人緒方英三郎が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。
弁護人の控訴趣意(一)(事実誤認)について
所論によれば、原判示第二の不発拳銃弾は、一般保安上なお危険があるものということはできず、かつその運搬、保管等につき特別の取扱を必要とするものと認め難いから、これをもつて火薬類取締法第二条第一項第三号(へ)の火工品に該当するものとした原判決は、事実を誤認したものであるというにある。
よつて審按するに、原判決挙示の関係証拠によれば、本件不発拳銃弾のうち五箇は日本製口径八粍自動装てん式拳銃用実包であり、四箇は外国製口径六・三五粍自動装てん式拳銃用実包で、いずれも雷管部の起爆薬が吸湿によつて化学的に分解し、起爆性を失つて発射薬に点火できないため不発実包となつていること、しかし、右拳銃弾の薬莢中には〇・一〇七瓦乃至〇・三二九瓦の発射薬(無煙火薬)が存し、その機能は健全なもので、その加熱実験によると、温度が摂氏一二〇度に達すると、これらの実包は爆発し、その爆発時のガス圧力と飛散する裂開薬莢や弾丸によつてこれにかぶせてあつた厚さ二・五粍の厚紙による高さ五・五糎、縦一七・五糎、横一二・五糎の箱は破壊されたり貫通されたりし、また厚さ九粍の杉材による右同型の木箱をかぶせた場合には、そのとめ釘ははずされ、薬莢の破片は木箱の板に侵徹したり突き刺つたりしていること、従つて本件拳銃弾は落下あるいは単なるシヨツク程度では一般に危険性はないが、これを火中に落したり、火気に近づけた場合には、依然としてその危険性が現存していることが、いずれも明らかである。
おもうに、火薬類取締法による火薬類取締が火薬類による災害防止と公共の安全確保を目的とすることはいうまでもないとともに、火薬や爆薬を使用した火工品がすべて同法第二条第一項第三号(へ)に規定する火工品に該当するものとして所持の取締対象となすことは適当ではない(このことは信号焔管、信号火せん、煙火、がん具煙火について同法第二一条の規定の適用を除外していることからも明白である)ことも多言を要しない。ところで本件拳銃弾のごとく発射不能の不発弾でもはや同法に規定する実包とはいい得ないものであつても、前示のようにその薬莢中にはいまだ機能の健全な発射薬(無煙火薬)が存し、これを火中に落したり、火気に近づけた場合には、雷管の衝撃による点火の場合のように強力な力を発揮することはないとしても、右発射薬の爆発により裂開した薬莢や弾丸が飛散することが明らかである以上、一般保安上なお危険性が十分あり、特に火気等に関し保管上特別の取扱を必要とするものと認めざるを得ないから、これを同法第二条第一項第三号(へ)に規定する火工品に該当するものとして、所持の取締対象となすを相当と解すべきであり、特別の危険な取扱をしたときにのみ危険を生ずるに過ぎないものは保管上特別の取扱を必要とするものとはいえないから右法条に該当しないとの所論は排斥を免れない。
してみれば、原判決が本件不発拳銃弾をいずれも同法第二条第一項第三号(へ)の火工品に該当するものと認めたことは、まことに相当であり、従つて原判決には所論のような事実誤認の違法は存しない。論旨は理由がない。
弁護人の控訴趣意(二)(量刑不当)について
しかし、本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている被告人の年令、境遇、前歴、犯罪の情状及び犯罪後の情況等に鑑みるときは、なお所論の被告人に利益な事情を十分に参酌しても、原判決の被告人に対する刑の量定はまことに相当であり、これを不当とする事由を発見することができないので、論旨は理由がない。
そこで刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却することとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 岡林次郎 山本茂 生田謙二)